七月末、鶴岡の知人の招きで、思いがけなく山形県東田川郡櫛引町の黒川能、夏の薪能を観る機会に恵まれました。これはこの地方の春日神社に奉仕する農民による神事能です。その折、二十年前に旅した芭蕉の「奥の細道」の一部、出羽路の奥を再び歩いてみました。この時の印象を旅の吟行句に、連句として三十句にまとめてみました。

「出羽路ほそ道」           古川和子

ゆきゆきて合歓のあかりや最上川

夏草や紅花摘みし船着場

草茂る舟繋ぎ石古る芭蕉像

麦切りや白糸の滝まなかひに*

老鶯や「芭蕉」名もある草の宿

古民家の広間磨かれ灯の涼し

月山の宿に夜更かす仏法僧

明易き最上川見ゆ月山も

岩つばめ羽黒の山をほしいまま

青羽黒千年杉の注連古び

「爺杉」に番地つけあり夏の天

ほそ道の炎暑の道を俳徒たり

炎帝や参堂に侍す茸杉

夏痩せの仁王の肋黒びかり

三太郎日記の丘や雲の峰

日盛りや丘に草木供養塔

糸とんぼ羽をやすませ草木塚

鳥海山まなかひにして夏薊

塀低き櫛引町の凌霄花

出羽人の「のおのお」ことば川涼み

橋涼みねぐらへ帰る鳥の影

「水炎の能」に招かれ夏夕べ

「水炎の能」は青芝座席かな

篝火に巨蛾とびこめり薪能

黒川の村びと親し薪能

薪能夕日の色に開かれり

漆黒の天をそびらに薪能

白地着て朗々黒川能由来

薪能終る河原に月渡る

三伏の闇はるかより能の笛

(麦切りとはこの地方のうどんのことです)