群馬県渋川市近郊に在る最大山雙林寺は、子持山のゆったりとした山ふところに包まれた堂々とした古刹でした。山主様の御自坊である。今から半世紀も前に開創、現在まで五十一代の御住職によって法灯は守られ続けている。お寺で頂戴したお土産の中に「相田みつをポストカード」(曹洞宗発行)があった。

相田さんに初めてお会いしたのは二十年前、足利市内にある曹洞宗高福寺の「正法眼蔵」の会だった。友人の言う「ステキな和尚さん」にお会いしたいと言う理由だけで山門をくぐったので、眼蔵の提唱は全くわからなかったが御講義の後のお茶の席は楽しかった。相田さんは、その席で御住職の武井哲応老師に、その日の提唱についていろいろと質問された。御老師は身近なことを例にとって説明して下さった。相田さんは、ご老師の聞き書きをご自身で発行していた「円融だより」に紹介され、その文章をさらに誰にも解かる短い言葉に直し、書の作品にされ個展を開き、本を出版された。その言葉は読む人々の心にしみわたり、うるおし、日本中に広がっていった。

武井御老師が昭和六十二年に遷化され、相田さんはその四年後に他界された。持病の肝臓病をおして全国を歩かれ、武井御老師から伝えられた禅宗の教えを説いて歩かれた。相田さんが亡くなられた時、私たちは「和尚さんに呼ばれたのよ、そのくらいで、もう充分だから、こっちへこいって呼ばれたのね」と話し合った。それほど相田さんには必死のところがあった。

目に見える建築物や目には見えない智慧や思想、どちらにしても伝え続けてゆくことは大切な事だが、容易なことではないなあと、つくづくと感じさせられたこの度の翠風旅行でした。