七月初め、以前八年程駐在していたカナダ太平洋岸のこの町を三年振りに訪れました。町は生き物と同じく、絶えず変化しているもので、ほとんど毎年訪れていても、その変わり様に驚くものですが、三年振りでその町の変わり様と共に、改めて日本の生活に慣れた私にとってその違いは新鮮でもありました。

うだる様な蒸し暑い日本から九時間余りの飛行で、陽射しは強いものの温度は低く快適な気候のこの太平洋西岸の町は、特に夏は正に楽園の様です。丁度、樺太と同じ位の緯度に位置するので、夏時間の為もあって午後の九時過ぎまでは陽は沈まず、町の活動に合わせていると睡眠不足になってしまいそうです。

あまり知られていませんが、夏の期間にこの町には世界中の豪華客船が二十数隻集まって、一週間の旅程でアラスカクルーズに就航しています。岸壁の上に建っているホテルの窓からは、毎朝六時頃アラスカクルーズを終えた客船が一隻、二隻、三隻と帰港して、夕刻六時頃再び新しい乗客を乗せて、一週間の船旅に出港して行きます。  世界中の観光客が集まるこの町もすべて良い所ずくめとは行かず、冬のこの町は閑散とします。毎日の様に雨ガ降り、朝出勤時刻や、夕方帰宅時刻には車はヘッドライトをつけての運転です。丁度夏の付けを冬に払っている様な有様です。

この国では時の流れが、日本に比べて半分から三分の一位ゆっくりした速度で流れていると言われています。旅に出かけては、その訪れた国の時の流れに合わせるのが一番楽しめること、改めて実感した次第です。すべてがゆっくりした感じ、それでいて決して貧しくはなく、むしろ日本に比べても豊かさを実感します。一体この秘密は何なのか、考えさせられます。

いつもの事ながら、今回もこんな事が有りました。この町の公共の交通機関は主としてバスですが、これが三ヶ月前からストライキに入っていて、滞在していた2週間余りの間ずっと続いていましたが、人々は特に文句を言っている様子もなく、町の活動にも支障は余り無さそうでした。私の勝手な想像ですが、多分これは町の機能を含め、全体が全速力で動いているのではなく、余力を残してゆったりと動いているので変化が生じた時でもそれを吸収出来るゆとりがあるのではと思ったりもします。振り返って日本の様に全速力で走っていると効率も良く世界に冠たる経済力を誇る国になっているのでしょうが、際限なく走り続けて果たして幸せなのか、少々疑問も感じます。

尤も二時間余り南へ車で走った米国のシアトルに行くと、またカナダとは違って、アメリカンドリームを目指して、日本程ではないにしても、町全体が走っている様に見えます。現実にアメリカドルは日本で百二十円台に比べて、カナダドルは八十円台となって評価されていて、物の豊かさはカナダ以上ですが、何処か忙しさを感じます。

どれだけの経済的豊かさが人の幸せになるのか、これは全く基準はなく、人それぞれが決めることなのでしょう。少し難しい話になってしまいましたが、あまり深く考えないで、特に夏の季節にのんびりこの町を訪れる事をお奨めする次第です。