禅の道 藤田彦三郎

今回は第132号以下の越前吉峰寺参拝紀行を転載します。藤田さんは総持寺日曜参禅会の中に五雲会という旅行会を立ち上げられ、会員を伴って時々旅行に出かけられました。旅行会といっても単なる物見遊山ではなく、各地の神社仏閣を巡る信仰を中心にしたもので、丁度翠風講の旅行会の様なものだったようです。この五雲会で藤田さんは昭和四七年の夏、永平寺参拝の後、吉峰寺を訪ねておられます。

第132号  昭和47年11月1日

  愈々最後の目的地京福竹原駅下車、田舎の駅でタクシーなど御座いません。しかし、道路は綺麗に舗装されて居ります。吉峰寺は歩いて約三十分位の處にあるとの事。同信同行の一同はお互い話し合いながら楽しく三々五々連れ立って歩き出しました。途中スーパー食料品店に寄って昼食のパン等を買って居る時、先発のTさんが手招きをして早くおいでと合図をして居ります。早速行って見ると田舎の仕出し屋兼魚屋さんです。大変よいお店を見付けたものです。

  そこのお店の奥座敷を解放してもらい縁側の戸を開け新鮮な空気を一杯入れゆっくりと昼食をし尚ほ一層元気に出発しました。二,三人が後に残り御飯を食べて居りましたら店の御主人が吉峰寺まで車で送りませうと有難いお言葉です。早速厚意に甘えて乗せてもらい皆より遅れて出掛ける。途中で先に歩いて居ります一同に追いつきましたので同乗してまたたく間に到着しました。御主人のお話で帰りも駅まで送ってあげませうと誠に御親切な志に一同大喜びです。

  山の入り口に「道元禅師入越最初の道場」と書いた石の門柱が立って居ります。

  お昼の太陽が木の間より燦燦と輝いて居る急勾配の坂道を登り始める。曲がり角の要所要所に道元禅師のお言葉を板に書いて立ててあります。その前で立ち留まりお言葉を玩味する事に依ってそんなに疲れないで登る事が出来ます。御住職がうまくお考えになったものだと思いました。都塵を離れ老杉古松に囲まれた深山渓谷に老梅山吉峰寺が深閑として建っております。

   万緑や岩山坂を躓(つまず)かず  (五雲会木戸たかし氏作)    

第133号  昭和47年

禅師は当寺で約二年間にわたり正法眼蔵九十五巻中三十巻余りを御垂示になり後、永平寺に移られました。只今はうぐいす、ほととぎす等が終日鳴く好時節で御座いますが北陸特有の雪深い一面真白い冬などは大変に難渋された事と拝察致します。寒い冬の雪についての禅師の御歌に

冬草も見えぬ雪野のしらさぎは をのか姿に身をかくしけり

音も無く降り積もった雪で銀世界が一色になり誠に奇麗な神々しい情景で御座います。天地と自分と一体になりきった處かと拝察致します。

  我が庵は越しのしらやま冬こもり 凍も雪も雲かかりけり

雪深く人も来ない様な山奥に冬ごもりじーっと寂しい位静かな處で坐禅三昧になった御心を雪に喩えて歌われた事と存じます。