寄稿文 幸せの国ブータンを訪ねて 菊地豊

六月十五日よりネパールを経由してブータンに行ってきました。ブータンは、モンスーンの始まりでヒマラヤの峰々は厚い雲に蓋われ夜には雨が降ります。ブータンは、田植えの真っ盛りで棚田の緑がとてもきれいです。日本アルブスの農村風景とよく似ています。ブータンの首都ティンプーでは国立図書館、伝統的治療院、紙すき工房、民族博物館、サンデーマーケットなど今まで訪れていないところを中心に観光しました。とくに古い農家を移築し開館した国立民族博物館は、農機具や生活用品が展示されブータンの伝統的な生活を見ることが出来ます。首都ティンプーでも民族博物館のような古民家がたくさんあったそうですが開発の波が寄せて今は殆ど見られないそうです。

ブータンの男性は日本の丹前のような着物「ゴ」を着ています。女性は「キラ」と呼ばれる民族衣装を着ています。パロ国際空港に降りると空港の係員から税関職員まですべて民族衣装を着ています。ブータンでは学生から公務員、サラリーマンまで外で働いているときは民族衣装を着用しなければいけないと法律で決まっているそうです。とくにゾン(お寺と役場が一緒になっている)に入る時は、男性は、肩から袈裟の様なスカーフを着用し、女性は肩から帯状の肩掛けを付けないとゾンには入れません。但し外国からの旅行者は正装しなくても見学できます。袈裟の様な肩から掛けるスカーフは、一般の人は白、大臣は赤、国王は黄色と階級によって色分けされています。外国人でたった一人大臣が着用する赤色をもらった日本人ダショーと呼ばれた西岡京司は有名です。

男性のゴは膝上まで着物をたくしあげるので男性がスカートを履いた感覚です。膝下がスースーして冬は寒いです。椅子に座るときは膝をくっ付けて座らないとパンツが丸見えになります。常に注意が必要ですがブータン人はあまり気にしていないようです。足にはハイソックスを履き革靴を履いています。ブータン人は、家に帰ると民族衣装を脱ぎ我々と一緒の洋服やジーンズ等を履いています。ゴは着なれると冬は温かく夏は涼しくとても活動的です。ブータン人はお洒落でゴやキラを十着以上持っているそうです。既製品で五千円程で買えますがオーダーメードは一万円以上します。とくに金銀を織り込んだ手織りゴやキラは数万円から数十万円もするそうです。

今回の旅行でとても印象深かった所はティンプーから一時間程離れたチェリー僧院です。標高二千三百mの山の中に修行僧が暮らしている僧院がたくさんあります。山道を一時間以上登って僧院の本殿に到着します。どこからともなく読経が聞こえ荘厳な雰囲気に包まれていました。修行僧が寝泊まりしている宿坊には一般の人は立ち入り禁止だそうです。チェリー僧院の峰ひとつ向こうにタンゴ僧院が見えます。タンゴ僧院はお坊さんの学校で優秀なお坊さんだけが入門を許されているそうです。タンゴ僧院での修行が終わるとチェリー僧院で瞑想をし、各地のゾンやお寺に配属されるのだそうです。チェリー僧院の帰り道、修行僧と話す機会があり瞑想の仕方を尋ねたところ日本と同じ座り方で座禅を組んでいるとのことです。座布を用いるかどうかは分かりません。

今回の目的は数年前まで外国人が訪れることが出来なかった「ハ」を訪れブータンの伝統的農家を訪れることでした。「ハ」はチベット(中国)、インドと国境が一番近くインド軍が駐屯している関係で長い間外国人に鎖国状態でした。その為ブータンで最も素朴な農村風景や人々の暮らしが見られると言われています。標高四千mのチェレラ峠を越えると「ハ」谷が一望できます。棚田と伝統的農家が点在し桃源郷のようです。観光化されていないお寺を訪ねたり農家でお昼をごちそうになったりしました。ある農家でお昼をごちそうになりましたが、野菜中心のとてもシンプルな食事でお肉は毎日食べないそうです。農家の主人は奥さんでご主人は兄弟で婿入りしたのだそうです。兄弟で一人の女性と暮らすのは大変ですかと伺いましたら交代で家を空けるので特別問題ないと言っていました。 ブータンでは女性の場合も男性の場合も一夫多妻、一妻多夫が認められているそうです。

最近日本でもブータンの人気が高まってきました。とくにグロスナショナルハピネスGNH(国民幸福量)が話題になっています。ブータン人は毎日の生活が幸せと感じているそうです。何が幸せの原点になっているか次回の旅行で探ってみたいと思っています。