ブータンの幸福の源はなにか 菊地豊|翠風講ニュースレター6号 令和30年(2018)1月発行

ブータンの幸福の源はなにか 菊地豊

ブータンの食事風景

最近日本でも知られるようになってきたブータンの国民総幸福度(GNH)ですが2005年度のブータン研究所の調査では国民の96%が幸せと回答されました。最近の調査では74.4%と少し減少して来ています。

ブータン国民の幸福度を調べる調査は、どのように行われているのでしょうか。ブータン研究所では次の9分野で聞きとり調査しています。1、心の健康 2、健康 3、時間の使い方 4、教育 5、文化の多様性 6、良い統治 7、コミュニティの活力 8、環境保全・生物多様性 9、生活水準。

ブータン人が幸福と感じる源は何から来ているのでしょうか。私は、仏教の教え「足るを知る」生活が国民の生活に根差しているからではないかと思っております。

ブータンの首都ティンプーでは、田畑や山を削ってアパートやオフィスビルの建築ラッシュが続いております。又、若い人はインターネットに夢中になり、家庭ではテレビや乗用車をローンで買い求める人が増えていると聞いています。パソコンや携帯電話の普及も目覚ましいものがあります。ブータンを訪れた時に、お坊さんが携帯電話で話している姿をお寺で見かけました。

数年前に初めてブータンを訪れてビックリしたのは、民族衣装を着た人が町のどこでも溢れていたことでした。今年ブータンを訪れて感じたのは洋服を着ている人が年々増えて来ているように思われます。ブータンの民族衣装は、公務に着いている時、会社で働いている時、学校では、民族衣装のゴ(男性)キラ(女性)を着用する義務があります。その為パロ国際空港に到着したら民族衣装を着た空港職員、入国管理官、ガイドなどが迎えてくれます。 しかし仕事を終えた後は洋服に着替えて生活しているようです。

ブータンの首都ティンプーで現地の人達と夕食を共にした時、現地の人に合わせて民族衣装を着て出かけたところレストランに着いてビックリ。 私以外の人は全員洋服に着替えて来ていました。いずれブータンの民族衣装も日本の着物と同じように衰退してしまうのでしょうか。

ブータンの国家予算の四割が海外からの援助に頼っています。ブータンの名目GDPの内訳で第一位の建設業第3位エネルギー業は、共にブータンの基幹産業である水力発電が主な部分を占めています。水力発電で得られる電気をインドに輸出し外貨を稼いでいるのです。第二位を農業・林業・畜産業が占め四位以下に交通・通信・観光業が占めています。外国からの援助脱却を目指しているブータンは、水力発電所を増やし外貨を稼ごうと頑張っていますが消費の拡大に伴い輸入超過に陥り外貨が底をついています。

交通・通信の割合が大きいのは、近年政府が国内のインフラ整備に力を入れているからです。観光業では、年間十万人の観光客を見込んでおりホテルが続々と建築されています。日本からの観光客は、国王夫妻が来日されてから年々増加しており、昨年度はアメリカを抜いてトップに躍り出ました。観光客が増えることによりいろいろな問題も持ち上がってきております。ごみの増加による問題、汚水の垂れ流しによる下水処理の問題など。観光客がもたらす欧米文化の影響も見逃せないと思います。

テレビでは、インドの映画や海外の番組が衛星放送で見ることができ、今まで考えてもみなかった世界をテレビを通して知ることが出来るようになりました。一家の団欒がテレビに奪われつつあります。スーパーマーケットではインド、タイ、中国製品があふれ、外食産業も増えてきております。国民が便利さを求めて自国の製品より輸入製品に眼を向け始めています。都会では電化製品が注目を浴びています。

2010年度の幸福度をはかる調査では「ブータン人の物質的豊かさへの関心は88%となっています。敬虔な仏教国であるブータンが「足るを知る」生き方を捨て、消費に走ってしまったのでしょうか。

ブータンを訪れる人は、ブータン人のやさしさ、子供たちの目の輝き、民族衣装に感動します。これからも「幸せな国 ブータン」であって欲しいと願っています。

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