地球儀を俯瞰する歴史観 平井 満夫

地球儀を俯瞰する歴史観  平井 満夫

安部首相の外交指針は「地球儀を俯瞰する外交」だそうである。人によって評価は分かれるだろうが、私はこの指針は正しいと思うし、これまでのところ安部さんはよくやっていると思っている。それはさておき、世界の動きを観察する時に、地球儀を俯瞰する歴史観を持つことは大切である。国にしろ個人にしろ、これがしっかりしていないと大きな方向性を誤るし、世の中の時々刻々起こる出来事に冷静に対処出来なくなる。

私はこれまで地球儀を俯瞰する歴史観で書かれた世界史の本はないものかと求めてきたが、日本人の書いたもので、これに該当するような書に、今までお目にかかることはなかった。昨年遅まきながら宮崎市定著「アジア史概説」(中公文庫)をふとしたことで手に入れて「これだ」と思った。初版は一九八七年二月十日とあるから、かなり前から出ていた本で、自分の不勉強を晒しているようなものでもある。

著者(一九〇一―一九九五)は京都大学名誉教授で専攻は中国史と紹介されているが、視野は正に地球儀を俯瞰している。人類の歴史が始まってから第二次大戦後に至るまでを、大掴みに歴史の流れの特徴を捉えて書かれている。これを読むと日本の歴史も明快に理解できる。第二次大戦前後の日本についても、敗者は悪、勝者は善といった自虐的見方に陥ることなく、公平な評価と批判を交えた書き方である。ソ連崩壊前の執筆ながら世界の中でのこれからの日本のあるべき方向性が示されている。骨太な歴史書だ。

経済学者の猪木武徳氏がこの本に魅了される理由として、著者が「重要なことは必ずしも文書に残されていない」という立場から、史料でカバーできない部分を豊かな想像力で埋めていると評している(日経平成二十六年四月二十七日)が、偉大な歴史家の正にこの想像力の面白さに魅せられた思いである。確かに我々の日常生活でも、本当に大事なことは口に出さない、文字に残さないということはままあることではないか。まして歴史家の対象は過去の出来事である。歴史家にとって史料は無論大事だが、史料に拘り過ぎると得てして大きな歴史の流れを見失う。科学の世界でも同じようなことで、偉大な科学者(技術者も含めて)は、データに拘り過ぎずそこから次のステップに飛躍する想像力の持主だと思う。

この本の表題は「アジア史概説」であるが、視野は従来のアジアという領域に留まっていない。